vol.13

習熟度別指導を生かすには
財団法人 図書教材研究センター理事長
辰野 千壽

習熟度別指導は、学習内容の習熟の程度に応じて編成された学級、あるいは学習グループにおいて、さらには個別の形態で指導する方法である。同一年齢で編成した学年、学級で、個人差に応じた教育を適切に行うための方法であり、理念としては正しい。我が国では、この指導は高校では昭和53年、中学では平成元年に導入され、現在では小学校でも実施されている。しかし、この指導は本当に学力の向上に役立っているであろうか。その効果は実証されているであろうか。

アメリカではすでに個人差に応じた指導として能力別学級編成が用いられ、その効果について、多くの研究が行われたが、結果は必ずしも明確ではないと言われている。能力別編成の学級では、学力上位の学級は学力の向上を示したが、学力下位の学級は成績がよくならないため、学年全体の学力の向上がみられなかったという。その理由のひとつは、教師が下位の学級の能力を過小評価し、学力の向上を期待しない傾向があり、このような教師の期待の違いが子どもの学習に反映したためと考えられ、能力別学級編成は学力向上とは別の観点(教授・学習上の問題の減少)から用いられている。そこで、学力向上の観点からは、学級内の能力別編成が用いられている。この方法では、グループは子どもの習熟度に応じて、教科毎、あるいは単元毎に、柔軟に変えられる。この方法は一般に有効であるが、綿密に計画を立て、教材を習熟度別に準備することが必要であり、教師の負担を重くするところに問題がある。

習熟度に応じて指導し、完全習得を目指すためには、それぞれの子どもに適した教材を用意し、指導法を工夫することはもちろん必要であるが、さらに重要なことはそれぞれの子どもが必要とする学習時間を与えることである。周知のように、同じ単元を完全に学習するには、習熟度の低い子どもはより多くの時間を必要とする。同じ時間内で教材や指導法を工夫するだけでは、学力差は縮まらない。単元で学習時間が同じであれば、習熟度別に指導をしても、習熟の遅い子どもはいつも時間不足で完全な習得は難しい。習熟度別指導で、同一水準の達成を目指すならば、この時間をいかに作り出すかが問題である。

〜図書教材新報vol.13(平成18年5月発行)巻頭言より〜