vol.15

改めて基礎・基本教材を考える
社団法人 日本図書教材協会 副会長
星槎大学 副学長
川野邊 敏

「基礎・基本」はやっかいな代物の代表格である。子どもの自己学習力の育成が求められる今日でも、その育成が最重要課題であることに異論はないが、中味が曖昧のまま今日に到っている。「基礎は土台であり、基本は柱である」から始まり、「両者は切り離すべきものではない」あるいは「学習の次の段階に進む上で必要な学力」、「人間として生きる上で最低限必要な文化的能力」といった説明が論者の立場や思想によって述べられ、読者は一面で頷きながらも納得しかねているのが正直なところであろう。

そんな中でご存知の方も多いと思うが、中教審の教育課程部会でこの問題に一定の結論を出していることに注目したい。審議経過を見ると、基礎・基本を「学習を進めていく上で共通の基盤となる知識・技能」という、従来の一般的とも言えるとらえ方に加え、「実生活において不可欠であり、活用できるようになっている知識・技能」の二つの側面から整理しようとしている点である。つまり、教科学習の面からだけでなく、生活上の必要性の面を加え、基礎・基本を総合的にとらえようとしているのである。この考え方に立って、どの教科の授業であれ、「体験から感じ取ったことを活用する能力」「知識・技能を実生活で活用する能力」「情報を獲得し、思考し、表現する能力」「構想を立て、実践し、評価・改善する能力」の四つの能力の育成が求められることになろう。

私はこれまで、蓄積の知識から活用の知識への転換あるいは「教育と生活との結合」の必要性を主張してきたが、今回の審議会の経過報告は我が意を得たものとして評価したい。しかし、二兎を追うことの難しさも感じずにはいられない。生活との結合を追い求めた旧ソ連の歴史を辿ると、それに急なあまりに教科の基礎知識の低下をみたという経緯がある。限られた時間と学校空間、さらに高度化しつつある教科内容のもとで、両者を調和的に保障するするのは容易ではない。教材を考える場合、この新しい視点を重く受け止める必要はあるが、安易に生活教材を取り上げる愚は避けなければなるまい。評価を含め、どの単元のどの部分・材料で提供したらよいのか、お互い知恵を出し合う必要があろう。

〜図書教材新報vol.15(平成18年7月発行)巻頭言より〜