vol.16
- 本・図書・書物・書籍考
- 財団法人 図書教材研究センター 副理事長
- 上越教育大学 名誉教授
- 新井 郁男
ずっと頭から離れずに考えていたことがある。それは、本、図書、書物、書籍を英語で表現し分けるにはどうしたらよいか、ということである。和英辞典を引くと、本、図書、書物、書籍に対する英語はbookである。研究社刊のNew Japanese-English Dictionaryをみると、本と書物にはa book、図書と書籍にはbooksという英語が充てられている。
これによれば、本と書物は個々の具体的なものであり、図書と書籍は総合的・一般的な概念ということになる。学校で使う教科書は日本では教科用図書と言われるが、これは特定の学年、教科の教科書ではなく、学校で各教科の教育のために使用することを目的として国の検定を受けた本あるいは書物全体を指していると言ってよいであろう。
しかし、広辞苑では図書を「絵図と書物」と解説している。図書には絵図が含まれるということは、字面からも納得であるが、この定義では書物からは絵図は除外されるというようにもとれる。 また、ユネスコでは、出版統計の必要から、bookを「表紙を除き49ページ以上の印刷された非定期刊行物」と定義している。ページ数の少ないものはbookではなくbooklet(冊子)扱いするということであろう。
図書館法では、図書館を、「図書、記録その他必要な資料を収集」したりする施設と規定している。また、「子どものための読書活動の推進に関する法律」では、第5条(事業者の努力)で「子どもの健やかな成長に資する書籍等の提供に努めるものとする。」というように、書籍という言葉が1回だけ登場するが、本、図書、書物は出てこない。書籍等の「等」には何が含まれるのだろうか。
いずれにしても、本、図書、書物、書籍は概念的に明確に区別されているわけではないことがわかるが、われわれは子どもに向かって、書籍を読め、とは言わずに、本を読みなさい、と言うがごとく、文脈、状況、目的などによって使い分けている。
英語にはbookしかないところを、日本には、多様な表現方法があるということは、その概念的区別は曖昧であるにしても、文化的豊かさを示すものだと解釈できるのではないかとも思うのであるが、所詮、本、図書、書物、書籍を、英語で表現し分けることは無理なのだろうか。
〜図書教材新報vol.16(平成18年8月発行)巻頭言より〜