vol.21

基礎の基礎としての読書教材
社団法人 日本図書教材協会副会長
星槎大学副学長
川野邊 敏

今年は教育界にとって大変な年になりそうである。新教育基本法成立に伴う教育課程・学習指導要領の改訂、いじめ・自殺対策など現場教員にとっても厳しい対応が迫られるに違いない。そこで、主要国では一体どのような問題があるのか眺めてみると、驚くほど類似の課題が浮上する。我が国のものとは位置付けが違うが「教育基本法」(フランス・16年ぶり)、「義務教育法」(中国・20年ぶり)などの法改正、基礎・基本の徹底策(イギリス・アメリカ・ドイツなど)、いじめ対策(イギリスの「リスペクト・アクションプラン」)などが際立っている。

それらの中で興味深いものとして、小学校の「読み書き能力向上策」が注目される。イギリスでは1998年以降「全国読み書き能力向上策」が掲げられ、11歳の子どもの水準をレベル4まで引き上げる運動を展開している(14歳でレベル6に到達)。また、フランスでもドビルバン首相が、特に小学校低学年の「読み書き指導の強化」を指示している。中学校入学者の10%が正しい読み書きができないということへの危機感の表れだという。

学力の基礎の基礎が「読み書き能力」であることは間違いない。そして、その基本が読書の量と質に負うことも、まず間違いあるまい。フィンランドの学力水準の高さのひとつは冬の国での読書量の多さや、住民一人当たり図書館数世界一をあげている専門家もいる(福田誠治「競争なくても世界一」)。混乱の続いたロシアでも重要な教科として「文学的読み方」(ロシア語以外に)があり、低学年から著名な作家の作品をそのまま読ませる授業を行っている。教師が読んで聞かせる部分、大人と一緒に読む部分、子ども自身が読む部分などを分けて指示しているが、ともかく優れた作品を読ませるのである。

遅ればせながら「国家の品格」(藤原正彦著)を読み、また諸外国の取り組みを参考にしながら、早期からの読書の必要性を改めて思い起こしている。国語の教材として、内外の優れた文学作品を吟味しつつ取り上げ、子どもにより多く読ませ、感じさせ、考えさせる工夫が必要だろう。教育改革がどのような形で進むのかはわからないが、この基礎の基礎を忘れてはなるまい。

〜図書教材新報vol.21(平成19年1月発行)巻頭言より〜