vol.24

改めて学習効果の転移を考える
財団法人 図書教材研究センター理事長
辰野 千壽

今日の課題
今日、PISAによる学力調査の国際比較で、我が国の児童生徒は「文章や資料に基づいて論理的に考える力」「文章や資料を理解し、利用し、熟考する力」が弱いとされ、この面の学力の向上が重視されている。今回、文部科学省で行う全国学力調査でも、この点に配慮し、「知識」に関する問題と「活用」に関する問題に分けて出題されている。前者は後の学年の学習に必要な内容、実生活に不可欠な知識・技能をみる問題であり、後者はこれらの知識・技能等を実生活に活用する力をみる問題である。したがって、指導においても、この面に配慮することが必要であるが、学習心理学の立場からみると、この問題は、特別新しいものではなく、学習効果の転移としてみることができる。

学習効果の転移
学習心理学では、学習の過程を①動機づけ、②選択的注意(一定の特徴をもつ刺激に注意し、それを選択する)、③獲得、④保持、⑤転移のステップで考える。そして、この転移は、獲得し保持したことを次の新しい場面に応用することであり、教科内の転移、他教科への転移、さらには実生活への転移が考えられる。したがって、各単元において実生活への転移まで考えて指導すれば、現在問題になっている確かな学力もPISA型の学力も習得できることになる。

学習効果の転移と教材
現在、教材の作製においては、前述の学習過程にそって、それぞれのステップの学習に役立つように工夫されているが、これからの教材では、さらに単元毎に教科内、他教科はもちろん、実生活の場面への転移を想定して問題を作製することが必要になる。特に、転移を促す次のような条件を考えて内容を構成することが必要である。

(1)
個々の知識・技能の習得にとどまらず、それを一般的法則にまとめ、一般化する。
(2)
学習内容(要素、構造、関係)、態度、方法、方略が類似した発展的教材、応用場面の教材を考える。しかも多様な場面の教材を考える。
(3)
学習者が学習活動に積極的に参加し、応用しようという気構えをもつようにする。

〜図書教材新報vol.24(平成19年4月発行)巻頭言より〜