vol.26

「教材の多様化」への対応
社団法人 日本図書教材協会副会長
星槎大学副学長
川野辺 敏

教育改革の論議は結構だが、再生会議と中教審の関係などに留意する必要があり、教育関係者にとっては受難の年になっている。特に、教育基本法が改定されても、学校教育法の改定や学習指導要領の全容が明らかでない状況が続いており、教科書・教材の作成者や教委・学校は手の施しようがないのが現状である。しかし、垣間見られる論議や中教審教育課程部会などの動きから判断すると、基本的な方向は見えているような気がする。教育再生会議の中心は「ゆとり教育」批判であり基礎学力の向上に焦点が当てられているようだが、中教審では「自ら学び自ら考える力などの<生きる力>をはぐくむという現行学習指導要領のねらいは今後とも重要である」とし、「基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養う」ことを明示している。つまり、これまでの基本方向となんら矛盾するものではなく、(1)基礎・基本の確実な定着、(2)知識・技能の活用力の育成、(3)探求的活動(学習)の強化、といった「自ら学び、自ら考え、行動する力」の育成が目指されることは間違いあるまい。

しかし、では教材の在り方はこれまで通りでよいのかというと、結論的には「多様化」が求められているといえる。まず、「基礎・基本の確実な定着」という課題に応えることを改めて考えなければならない。これまで平均的な学力の子どものみを対象にして教材を作成してきていないか、理解の早い子どもや遅い子どもに対する教材作りは十分か、問題とされている特別支援教育の対象者(6%強)に対する対策はどうか、などが問われることになる。同学年の同じ教科・単元であれば単一教材で、とはいかないのである。さらに、重要なのは定着した基礎・基本についての知識・技能を「活用できる力」に育て、加えて、子ども自身が「探求的に活動(学習)できる」ようにすることが課題になっている。そのための教師・子どものための教材作りは十分なのか、また、子どもの探求的活動を支え、促進するために必要な保護者や地域住民を対象とした「子どもの自己学習支援のための教材」に手がつけられているのだろうか。

教材作成について長年の努力を払われてきた教材作成者の皆さんは、これらを念頭において教材作りに工夫をこらされてきたと思う。その結果、営業面からは無理な話というかも知れない。が、実は、改めて「教材の多様化」という視点からの教材作りが求められる時代なのであり、この多様化の難問に正面から立ち向かい、どう突破するかが問われているのである。教材学会とも連携しつつ業務に結び付ける努力を期待したい。

〜図書教材新報vol.26(平成19年6月発行)巻頭言より〜