vol.28
- 「児童・生徒一人ひとりの学習状況に応じた教材の開発」
- 社団法人 日本図書教材協会理事
- 東京家政学院中学・高等学校校長
- 佐野 金吾
平成元年度の学習指導要領の改訂に伴って学習の評価は児童・生徒一人ひとりの学習状況を各教科の目標を基準にして評価するようになり、さらに平成10年度の改訂によって、学習の評価をすべて絶対評価で行うようになった。学力に関する問題は児童・生徒個々人の問題であって他者との比較によってとらえることではないとする考えによるものである。
授業を通して新しい知識や技術を身につけることができた喜び、学級の仲間と学習活動に取り組むなかで得た感動の体験などによって子どもたちは大きく成長していく。教師は子どもたち一人ひとりの成長を願いながら、それぞれの学習状況をふまえて複雑な授業の組み立てに取り組んでいる。
現在、授業は学級という生活集団で行われているが、学級内の児童・生徒一人ひとりの学習状況はさまざまである。習熟の早い子・遅い子、なかなか授業に集中できない子、読み取りの早い子・遅い子などが同じ学習集団となっているのであるから授業の展開にはかなりの工夫を必要とする。教師は、その授業時間の目標を達成するための内容や方法、そして評価についてかなりの工夫をして複数の授業案を用意して授業に臨むが、いざ授業が展開されると子どもたちの活動はなかなか当初の案のようにはいかない。特に、読み取りの遅い子や習熟の遅い子に対しての指導にはかなり懇切な個別指導を行わなければならない。このような時、他の子に対しては自学・自習の指示を出して対応しているが、すべての子を満足させる学習活動とすることは難しい。
授業の展開は決して一直線とはならない。児童・生徒一人ひとりの学力を保障するには複数の授業の流れに対応できる適切な教材がどうしても必要である。特に、学習状況に応じて自学・自習ができ、勉強の仕方が身につき、やり遂げた成就感の得られる教材があれば、一人ひとりが満足する学習活動とすることができるし、一人の教師であっても複数の授業の流れをもった授業を展開できる。
学習指導要領に示す各教科の目標・内容はすべての児童・生徒が身につける“確かな学力”の最低基準である。児童・生徒一人ひとりに対して“わかる授業、できる授業”を成り立たせ最低基準を保証するためにはさまざまな学習状況に対応できる教材が必須の条件となる。
昨年度から日本教材学会の研究懇話会では児童・生徒が“主体的に学習できる教材”をテーマとして研究に取り組んできたが、多くの研究・実践報告からさまざまな児童・生徒の学習状況に応じた教材開発の可能性をとらえることができた。
児童・生徒一人ひとりの学力を的確に把握し、適切な評価を行うとするならば、多様な学習の状況に対応できる教材によって、多様な授業の展開が欠かせられない。
学校現場にかかわる一人として、教科の目標を実現し、多様な学習活動に対応できる教材開発の具体化を切望している。
〜図書教材新報vol.28(平成19年8月発行)巻頭言より〜