vol.30

「理念」は間違っていない
社団法人 日本図書教材協会会長
菱村 幸彦

近く中央教育審議会から教育課程部会における審議の概要が公表される。遅れに遅れていた指導要領の改訂内容がようやく明らかになるわけだ。

審議の概要の素案をみると、中教審は、指導要領改訂の基本的な考え方として、「生きる力」の育成を掲げ、「確かな学力」の定着を強調している。これは現行指導要領の理念と基本的に変わらない。

ここ十年、「ゆとり教育」批判が高まる中で、国の教育方針が揺らいでいるという非難めいた論評をよく耳にした。しかし、中教審は、学校教育の基本理念について、現行指導要領の基となった平成八年の答申を基本的に変更しないことを明示している。

この点について、中教審は、「生きる力」という理念に間違いはない、ただ、それを実現する手立てが十分でなかった、と反省の弁を述べている。すなわち、①「生きる力」について文科省、学校、保護者の間に十分な共通理解がなかった、②子どもの自主性を尊重するあまり、教師が指導を躊躇する状況があった、③各教科と総合学習の役割分担と連携が十分図れていなかった、④必修教科の授業時数が十分でなかった、⑤家庭や地域の教育力の低下を踏まえた対応が十分でなかった――というのだ。そう言えば、ここ数年、文科相は国会でも同旨の答弁を繰り返している。

新指導要領は、こうした反省点を踏まえた上で、生きる力の知的側面としての「確かな学力」のより一層の定着を目指した改訂が行われることになるわけだが、どこがどう変わるのか。

詳しくは、中教審から出される審議の概要をご覧いただきたいが、ここでは「重点指導事項例」と「言語の重視」の二つだけ取り上げておこう。

「確かな学力」で重要なことは、ひとつは、基礎的・基本的な知識・技能を習得させること、もうひとつは、知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力の育成をすることである。

で、まず、基礎的・基本的な知識・技能の一層の習得を促す方策として、新たに指導要領で「重点指導事項」を例示するという。重点指導事項とは、重点的な指導や繰り返し学習が求められる事項をいい、具体的には、例えば、「整数、小数、分数の意味が分かり四則計算ができること」「ヒトや動物のつくりについて知ること」「三平方の定理について理解すること」「物質は粒子からできていることについて理解すること」等を挙げている。

次に、思考力・判断力・表現力等の育成のためにはその基盤となる「言語」を重視している。言語の充実のためには、単に国語科だけでなく、理科の実験・観察レポートや社会科の見学レポートの作成などすべての教科で取り組む必要があるとしている。新指導要領では各教科において記録、要約、説明、論述といった学習活動を明示することとなろう。

〜図書教材新報vol.30(平成19年10月発行)巻頭言より〜