vol.34

「教材作成」二つの視点
社団法人 日本図書教材協会副会長
星槎大学副学長
川野辺 敏

昨年暮れに「国立教育政策研究所」が霞ヶ関に移転し、その「お別れ会」が 月 日に行われた。私ごとで恐縮だが、 年余に亘り勤務した場所なので、いささか感慨にふける時間をもたざるを得なかった。移転先は文科省本館の5〜6階になるとのことであったが、研究室はかなり狭くなり、研究部の事務室や研究員が集まり、交流する部屋もままならないとの話も聞いた。この日のプログラムは、国研でシンポジウム、その後目黒雅叙園での懇親会ということであり、前半では、活躍中のOBである梶田・耳塚氏などの発表があったが、私も、「研究は基礎的・科学的・長期的≠ナなければよい結果は得られない、あるいはゆとりや研究員同士の交流≠フ場や時間が必要である」など、先輩からの助言や経験上考えてきたことを述べた。ただ、これからは環境面から考え、なかなかそういうわけにも行かず、研究員は苦労を強いられることになるのではというのが、OBたちの一様の心配ごとであった。

そのような発言と併せて、我々が直面する教材作成についてはどう考えたらよいのか、改めて自問してみた。今年を起点に、新たな教材作成が喫緊の課題となり、なによりも早く「教科書」を入手し、それに基づく教材作りに取り組むことになるだろう。教材作成には「緊急性・実践性・効率性」が求められているからである。しかし、教科書を待つ前に、教育の本質はなにか、これからの教育の方向性はどうか、特に留意すべき点はなにか、などについての基礎的研究を抜きにしては、よい教材は作れないだろう。別言すれば、教材作成に当たっては、研究的要素と実践的要素の調和が求められているといえる。この観点からいえば、教材作成者と研究者との協力・融合がますます必要になってくる筈である。

また、留意しなければならないのは、「家庭との連携」である。最近、教科書に関して、保護者への質問調査を行う機会があったが、小中学校ともに子どもの家庭教育への関心の高さが浮き彫りにされた。特に、小学校の場合、保護者が子どもに寄り添って学習している比率は %を超えている。学校・家庭・地域の連携が必要な今日、きわめて結構なことではあるが、問題も浮上している。保護者が学校でどう指導しているのかがわからないため、家庭での指導に戸惑っているという回答がきわめて多かったのである。つまり、教材作成に当たって、学校(教師)と家庭での指導上の連携がうまく取れるような工夫が求められているといえる。作成した教材が、学校でどのように活用されているのかを十分把握し、家庭で「子ども自身」が学ぶ場合どう活用するか、あるいは「保護者との同伴で」学習する場合、どう活用したらよいのかが問われているのである。学校での補助教材としての視点とともに家庭での学習という視点が教材作成の際に強く求められているといえよう。

〜図書教材新報vol.34(平成19年2月発行)巻頭言より〜