vol.37
- 新しい学習指導要領に思う
- 社団法人日本図書教材協会理事
- 東京学芸大学名誉教授
- 杉山 吉茂
新しい学習指導要領が発表された。すべての教科をみたわけではないが、学校教育法の一部改正で「基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに特に意を用いなければならない」という文言が追加されているので、新しい学習指導要領全体は、その線に沿って作られているものと思う。私が関係する算数・数学科では、以前、ゆとり教育を進めるために指導内容の3割削減が目にみえる形で行なわれたのであるが、今回の改訂で、削減された指導内容がほぼ戻り、旧に復した形になった。3割削減に強く反対してきた者としては嬉しいことであるが、それならこの10年は何だったのかという憤りも覚える。この10年間に学校で学んだ子どもたちにどう言い訳するのか。前の改訂で、中学校の数学のレベルをそれ程落とさないですんでいるので、大きな被害はないとは思うが、指導内容を3割削減した影響がまったくないわけではあるまい。3割削減によってもたらされた学力低下のために行ったいろいろな施策、そのために費やした多くの費用は、3割削減しなければ必要なかったはずのものである。そして、旧に復するために来年度と再来年度に行う移行措置には、さらに労力と費用がかかる。
うらみごとを言っていてもつまらないので、ここではこれ以上言わないが、来年度、再来年度に行う移行措置がスムースにいき、新しい改訂のために落ちこぼれる子どもを作らないように、指導の充実と教材の開発を期待したいものである。と同時に、この10年間に世代の交代が起こり、旧に復すると言っても知らない世代が多くなっていることに配慮した施策や教材の開発も必要である。また、「言語活動の充実」が各教科に求められており、それをどう具現化するかも考えなければならない。算数・数学科では「数学的活動」を通して数学を学ぶことが期待されており、数学を活用できるカも求められている。「数学的活動」については、いろいろな解釈があるようであるが、私は「数学を創造し発展させる活動、数学を活用する活動」ととらえている。創造的な活動、発展的な活動を通して数学を学ばせるのはどうすることなのか。知識・技能を活用できる力を育てるにはどういう授業をしたらいいのか。そのための教材はどうしたらよいのか。
さらに言えば、今回の改訂のなかには、これまでに見られなかった変更もある。それを全体のなかにどう位置づけ、どう生かすのか。そして、各教科の教育をさらに発展させるためには、学習指導要領の枠のなかだけの教育を考えるのではなく、新しい試みもするようにしたい。これまでの移り変わりをみて、こうした課題にも答えることが大切だと思う。
〜図書教材新報vol.37(平成19年5月発行)巻頭言より〜