vol.39
- 読解の方略を生かす
- 財団法人 図書教材研究センター理事長
- 筑波大学名誉教授
- 辰野 千壽
学習では、教科書や参考書などの図書教材を読むことが多いが、その内容を理解し、記憶し、活用するためには、その読み方や方略の用い方が問題になる。この点については昔から研究されているが、ここでは近年発展した認知心理学の立場に立つクックら(1983)の考え方に基づいて考察することにする。
- (1)
- 読解の過程
認知心理学では、読解は外から入ってくる情報を頭の中で操作し、変換(符号化)する内的過程であると考え、選択・獲得・構成・統合の四つに分けることがある。選択は読み手が文章のなかの情報の特定の部分(必要な部分)に注意を集中すること(選択的注意)であり、獲得は選択した情報(アイデア)を長期記憶に移し、貯蔵する過程である。この選択と獲得の過程は、必要な情報を意識に取り入れ(認知)、それを長期記憶へ転送することになる。構成は文章から獲得されたいくつかのアイデアの間に結合(内的結合)を形成し、統一のとれた構造へと再体制化することであり、統合は関連のある既有の知識と新たに獲得したアイデアの間に結合(外的結合)を形成することである。選択と獲得は、外からの情報を記憶に転送することを含み、構成と結合は、それらの情報を含んだ内的及び外的結合を積極的に形成することを含んでいる。 - (2)
- 読解の方略
このような読解の各過程において効果的に働く方略があるが、これにはテキストを作製する際、あるいは教える際に用いる方略と読み手が学習の際に用いる方略とある。①選択過程の方略には、テキスト(あるいは教師)が用いる方略として、教授目標の明確化、事前の質問、鍵となる項目のイタリック体印刷、形式、文の間隔、などがあり、読み手の用いる方略として、下線(あるいは傍線)を引くこと、逐語的にノートにとること、明暗をつけること、などがある。②獲得過程の方略には、テキスト(教師)が用いる方略として、事後の質問、書くスタイル、興味の喚起、などがあり、読み手の用いる方略として、注意の仕方(下線、傍線を引くなど)、読み方、反復読み、などがある。③構成過程の方略には、テキスト(教師)が用いる方略として、推論を求めること、事前に要旨を与えること、文節ごとに要旨を示す小見出しをつけること、などがあり、読み手の用いる方略として、要旨をまとめること、文章内のアイデアを比較すること、などがある。④統合過程の方略には、テキスト(教師)が用いる方略として先行オーガナイザー、具体的モデル、などがあり、読み手の用いる方略として、体制化方略、精緻化質問、精緻化ノートとり、などがある。
なお、理解監視方略、情緒統制方略はすべての過程において影響する。
これらの方略は、今日重視されている読解力の向上を目指す教材の作製や教授・学習において役立つ。
〜図書教材新報vol.39(平成20年7月発行)巻頭言より〜