vol.41

教材作成「転換の年」
社団法人 日本図書教材協会副会長
星槎大学副学長
川野邊 敏

今年は教材関係者にとって記念すべき年であると、改めて思う。(社)日本図書教材協会の創立五十周年記念式典が7月に行われ、また、日本教材学会が二十周年を迎え 月の研究発表大会(成蹊大学)では記念式典を行うことになっている。ちなみに、6月には(財)図書教材研究センターと直接関係のある「全国教育研究所連盟」の六十周年記念大会が山口県で開催され、筆者もあいさつやシンポジュームに引き出された。

このたび改訂された学習指導要領では、「確かな学力」を基盤とした「生きる力」をはぐくむことを基本理念としている。

学習指導要領が改訂され、新しい教育の方向も明確になった年でもある。ご存知の通り「教育課程編成の一般方針」では「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむ〜」と書かれている。つまり、変化の激しい、先の見えにくい社会にあって、また、人々の生きがいが多様化した社会にあって、早い時期から子どもたちに「生きる力」の基礎を育てることが重要であるとの認識にたち、そのために学び続ける基礎としての知識・技能の必要性、さらにそれを活用して課題を解決する力の重要性を表したものである。私はこれまで、学校教育は生涯学習の始発駅であると位置づけ、「生涯学習の基礎を培う場」であるとの立場に賛同してきた。この当然の思想がやっと実現に向けて動き出したという思いである。蓄積の知識重視から活用の知識・技能・実践を包含した教育への転換ともいえる。学校教育もそれを支える教材作成も「転換の年」といえるだろう。

ところで、教材作成はこの基本方向で動いているだろうか。基礎基本の知識を確実に身につけさせる面では多くの経験が重ねられているはずであるが、活用への転換に向けての教材はどうであろう。もちろん、これは教師にとっても、教材作成者にとっても難題である。ちなみに、旧ソ連では1917年の革命成立直後から、単なる知識を「机上の知識」として軽視し、「学校と生活との結合」あるいは「総合技術教育」(ポリテフニズムの教育)といった名称で、知識と生活・実践の結合を重視したカリキュラムを組んできた。しかし、1930年代以降の科学技術の急速な発展により知識面で遅れを取り、再び教科中心の教育へと転換せざるを得なかったという歴史がある。

その後世の中は複雑に変化し、教育面でもユネスコやOECDなど国際機関を中心に、新たに活用の能力を重視する政策が求められているが、「学校」という限定した場と時間のなかで、この問題を解決するのは極めて困難なことは間違いない。ただ、手をこまねいてばかりはいられない。少なくとも、従来どおりの基礎基本重視観にたった教材ではなく、基礎基本を創造的な活用能力育成のための土台であるという観点にたった教材観が必要だろう。このような観点による教材実現のための転換の年にしたいものである。

〜図書教材新報vol.41(平成20年9月発行)巻頭言より〜