vol.43
- 「学習習慣の確立」をはぐくむために
- 社団法人 日本図書教材協会理事
- 東京家政学院中学・高等学校校長
- 佐野 金吾
今回の学習指導要領の改訂は教育基本法、学校教育法の改正をふまえて行われている。本稿のテーマとの関わりで特に注目すべきは教育基本法第10条の規定である。第10条では、子の教育についての責任は父母などの保護者にあるが、国や地方自治体は家庭教育を支援する必要な施策をとることとなっている。どのような施策がとられるか大いに期待している。
このたび改訂された学習指導要領では、「確かな学力」を基盤とした「生きる力」をはぐくむことを基本理念としている。
現行の学習指導要領では「ゆとりのなかで生きる力」をはぐくむことを目指したものであるが、この趣旨が学校現場や家庭、地域社会で適切に理解されずにこの10年間の教育活動が行われてきた。文部科学省の調査やPISA調査によれば、知識・技能に関わる学力では概ね良好であるが、「生きる力」として重要な自分で考える力や表現する力、豊かな人間性、健康・体力に課題があることが明らかになった。ここでの指摘は子どもの教育に関わる大きな課題であるが、これらのすべてを学校教育で解決することはできない。子どもの生活にゆとりをもたせるために、完全学校週5日制を実施した。しかし、学校から離れた子どもたちの生活は完全学校週5日制の当初のねらいを実現するように改善されているだろうか。確かに、最近では地域による子どもたちの生活を充実させる具体的な活動が行われている地域もあるが、子どもたちの教育にとって問題となる事象はかえって多くなっている。なかでも家庭における子どもたちの学習環境は決して改善されてはいない。学校生活との関わりから子どもの家庭生活をみると、完全に夜型の生活で睡眠時間は少なく、朝食も摂らず、体を動かすことも少ない。健康・体力に関する大きな課題となっている。また、パソコンや携帯電話、電子ゲームなどは豊かな人間性をはぐくむ上では決してよい環境とはいえない。子どもの生活からは完全に「ゆとり」が奪われている。このような環境のなかで学校教育だけで学力の向上を図ることは至難である。このたび改訂された学習指導要領では学力の向上を図るには家庭との連携が重要であるとしている。しかし、家庭で受け入れ態勢が十分とはいえない現状では、この連携を具体的にどう進めたらいいのだろうか。特に学習指導要領の総則で指摘している子どもたちの家庭における「学習習慣の確立」を図るためには具体的にどのような手立てが考えられるのだろうか。教師の指導や宿題など学校側からの一方的な働きかけだけでは難しいと思われる。文部科学省の主導で進めている「早寝、早起き、朝ごはん」運動は食関連企業の協力によって成果をあげているようなので、「学習習慣の確立」には学校がイニシャチブをとるとしても、教材関連企業の協力など官民一体となった取り組みはいかがなものであろうか。
〜図書教材新報vol.43(平成20年11月発行)巻頭言より〜