vol.45

これからの教材への期待 ―シンポジウムでの提案(一部)―
社団法人日本図書教材協会理事
東京学芸大学名誉教授
杉山 吉茂

教材は、指導を助けるためにあるものであるから、どのような指導をするかによって教材は変わってくる。これからの教材のあり方を論ずるには、これからの指導のあり方をどうするかから考えなければならない。

今の指導と評価は、学習指導要領に決められた内容を確実に習得することに向けられている。わかりやすい説明による指導と確実な習得ができているかをみる評価が主となる。確実な習得を目指す評価はつまずきの発見を目指し、そのつまずきを補う指導をすることによって確実な習得がなされるようになると考えられている。これまでは、それに適した教材が望まれてきた。数学でいえば、解説→練習→評価(診断)→再学習・再練習(治療)というように行われ、それに適した教材の開発が望まれてきたし、今も望まれている。

そこにある基本姿勢は、学ばれるべきものとしての指導内容を確実に身につけさせることであり、なぜ、その内容を学ばなければならないかという視点はない。何のために学習しているのか、学習すると何がよくなるのかはわからない。少なくとも学習している子どもにはわからない指導が行われている。そのような指導をしていて、知識を活用する力はつくはずはなく、PISAの調査で「活用力」がないと評価されることは当然のことである。

この「活用力」を身につけさせるために、活用力を評価する問題に似た問題を与え、練習させようとする動きがあるが、それでは「活用力」を評価する問題はできるようになるかもしれないが、真の「活用力」はつかない。算数・数学でいえば、いろいろな型の文章題を教えることをもって問題解決力をつけようとするのと同じである。そういう指導をしていると「習ってない問題は解けない」という状況を作るだけで、真の問題解決力はつかない。ましてや、創造力など身につくはずはない。

「活用力」「創造力」を身につける教育を行うためには、指導内容を学習するときに、その内容がどんな価値をもつのか、どんな役に立つのか、それを学ぶことにどんな意味があるのかがわかるようにしなければならない。問題を解決したいという願い(その状況がわかり)、その問題の解決に数学が役立つことがわかるような指導をすることが必要である。解決したい問題があり、自分のもっている力でなんとか解決しているなかから数学を見つけ(作り)、数学を学ぶという形にしたい。

そのような学習をさせようとするならば、現在行われている「解説→理解・練習→応用」という順序ではなく、応用が始めにくるような学習展開にすべきであろう。すべての単元を応用から始めることはできないが、試みてほしい。

『生かす数学』(日本教材文化研究財団編集 東京書籍編集協力・発行)には、そのような考えを試みている単元がある。

〜図書教材新報vol.45(平成21年1月発行)巻頭言より〜