vol.46

学びて思わざれば
社団法人 日本図書教材協会会長
菱村 幸彦

ご覧になった方も多いと思う。新春、NHKで「もっと知りたーい!ノーベル賞」という番組が放映された。会場に集まった中学生から大学生までの若者の質問に、ノーベル賞の小林博士と益川博士が答える番組で、若者たちに自然科学の大切さと面白さを教える格好の番組だった。

番組ではアメリカ在住の下村博士と南部博士もインタビューに答える形で参加されていたが、南部博士が「若い人へのメーセージ」として、「学びて思わざるはくらし、思いて学ばざればあやうし」という言葉を挙げられたのをみて、我が意を得た思いがした。

というのは、私は、昨年、同じ言葉を引いて、ある教育雑誌に、大要、次のような一文を書いたからである。
《ゆとり教育のねらいは、子どもたちに「考える力」を身に付けさせることにあった。が、ともすると基礎基本の習得が疎かになり、「思いて学ばざる」弊を招いた。これではあやういというので、「ゆとり教育」見直しの声が高まり、基礎基本の習得に重点を移すことになった。しかし、これも行き過ぎると、「学びて思わざる」弊を招く。学校教育では基礎基本を習得させることと、考える力を育成することのバランスこそがいつの世も大切なのだ。》云々

新指導要領の総則は「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむ」ことを示している。つまり、基礎基本をしっかり教え、それを生かして、じっくり考えさせる教育を求めているわけだ。  周知のように、南部博士が引用された「学びて思わざれば則ちくらし、思いて学ばざれば則ちあやうし」(学而不思則罔、思而不学則殆)は、『論語』の為政編にある孔子の言葉である。

孔子は紀元前五世紀の中国の思想家である。二千五百年前の昔も二一世紀の今日も「学び」の基本は変わらないことをあらためて思う。

〜図書教材新報vol.46(平成21年2月発行)巻頭言より〜