vol.49

ソフトな発想での教材作り
社団法人 日本図書教材協会副会長
川野邊 敏

世の中不況のせいもあり、ぎすぎすしていると感じるのは筆者だけだろうか。教育についてもそんな感じがする。教育基本法・学校教育法あるいは学習指導要領の改訂など、相次いで指針が示されると、教育界全体が緊張し、現場の先生方もつい「堅く」なってしまうのではないかと気になる。教育は今も昔も「人と人」「人と環境」のソフトな「係わり」のもとで営まれるものであり、子どもは教師の情熱や思い、友達との交流・友情などに支えられ、また、自然や家族や大人社会との係わり合いのなかで、成長してゆくものである。この当たり前のことをつい忘れ、「基礎・基本の知識・技能の確実な習得」「思考力・判断力・表現力の育成」など次々提起される課題に必要以上に身構え、なんとしても目標を達成しなければという教師や親の姿が浮んできてならない。

そんな折に、教材も「堅さ」をさらに助長するようなものだと、教師にも子どもにも負担を強いるものになりかねない。教材の作成では学習指導要領・教科書に現れる基礎・基本を拾い出し、落ちのないよう仕上げるのは当然で、それは大切なことではあるが、手に取った子どもに、取り組んでみたいという意欲を呼び起こし、学習の過程での励ましや「成就」の喜びの声が聞こえてくるようなもの、別言すれば、継続して「やる気」を引き起こす教材が、今こそ必要だといえよう。教材作成者の皆さんは今さらなにをと思われるだろうが、目先の要求に追われて本質を忘れて欲しくない。教育の目標である「生きる力」の基礎を育てるということは、学びによって喜びや感動を与え、学びを生涯の生きる糧にしようとする心情を育てることである。子どもの心を揺り動かし、学びの楽しさや喜びを感じさせるような、心優しいソフトな教材作成を期待したい。

〜図書教材新報vol.49(平成21年5月発行)巻頭言より〜