vol.50

文字・活字教材と映像教材の間
財団法人図書教材研究センター副理事長
上越教育大学名誉教授
新井 郁男

文字・活字、すなわち、文章で記述された教材と映像による教材とでは教育的効果という点でどのように異なるだろうか。

文字・活字は、言葉のもつ抽象性・論理性から考えて、対象を抽象化し、概念化することによって理解を深める上で効果的である。それに対して、映像教材は、具体的にはテレビや映画だけでなく、漫画、劇画、写真、グラフィックなどのいわゆる画像による印刷物も含まれるが、映像は、その具象性・直観性から考えて、抽象性や論理性を養う上で問題があるが、対人的・主体的・体験的知識を得るためには効果的である。

こんな実験が行なわれたことがある。幼児にテレビのコマーシャル(アニメーション)を視聴する前と後(15分後)に「動かない木」を描かせたところ、視聴前にはまっすぐに立っている木、まさに動かない木が描かれたが、視聴後には、リズム感があり、表現の多様な絵が描かれたというのである。

以上とは違った観点に立った論もある。映像に関する研究で知られるシュラムは、映像への接触行動は空想志向的であり、活字への接触行動は現実志向的であると言っている。空想志向的行動というのは、快楽原理に基づく即時的報酬を求める行動を、現実志向的行動というのは、現実原理に基づく遅延的報酬を求める行動、すなわち、現在の楽しみを我慢して、当面の課題に専念する行動である。シュラムによれば、映像は、満足を先に延ばすのではなく、すぐに満足を求める行動を形成する機能をもつことになるが、映像には、現実逃避の傾向を助長するという評価と、緊張緩和的であるという評価がある。

いま学校では、文字・活字を読んだり書いたりする力、すなわち言語力が重要視されているが、教科書、補助教材いずれの場合も、以上のような観点を念頭におくことが重要であろう。

〜図書教材新報vol.50(平成21年6月発行)巻頭言より〜