vol.54
- 知識を考える
- 財団法人図書教材研究センター理事長
- 筑波大学名誉教授
- 辰野 千壽
知識は、ある事柄について知っていることや内容である。教育では、昔から知識の習得、一般には教科の内容についての知識の習得が学力として重視されている。ところが、この知識をさらに広く考えている論文(シュロウ:知識―構造と過程、2006)が目についた。学習指導を考える際に参考になると思い、簡単に紹介する。この論文では、知識を次の三つに分けている。
第一は、宣言的知識である。事実、概念、原理などについての知識で、教科の学習で扱われるものであり、具体的知識もあれば、抽象的知識もある。
第二は、手続き的知識である。物事をいかに行うかについての知識であり、文章題を解く、作文を書く、物を作るなどの手続きの知識である。この知識があれば、解決する際に多くの思考と努力を要しないで、自動的な方法で問題を処理できる。これも教科の学習で扱われる。
第三は、自己制御的知識である。自分が何をどの程度知っているか、自分の学習をいかに制御するかについての知識である。どの方略を、なぜ、いつ、どこで用いるかといった条件についての知識(条件的知識)も含まれる。この知識がないと、宣言的及び手続き的知識を多くもっていても学習効果は上がらない。この知識を習得させることは学習指導の新しい課題である。この知識はメタ認知ともいわれるものである。 メタ認知は、自分の認知過程とその制御についての認知であり、自分の認知過程について理解するだけでなく、学習結果に基づいてその過程を体制化したり、監視したり、修正したりする制御の能力を含んでいる。これが活動に現れた場合は、メタ認知的活動といわれる。この活動は学習効果に影響する。なお、この自己制御的知識に基づく学習は、自己制御学習といわれ、自ら学ぶ力の育成を重視する今日の教育にとっては有効な方法である。
〜図書教材新報vol.54(平成21年10月発行)巻頭言より〜