vol.62

処理の深さを考える
財団法人図書教材研究センター理事長
筑波大学名誉教授
辰野 千壽

学習指導では、生徒が教科書やその他の教材を活用して学習効果を上げることを期待するが、教材の活用には生徒の学習スタイルが関係する。

学習スタイルは「学習の際に好んで用いられる認知活動、学習活動の様式・方法」であるが、ここでは教材をどのように処理するか、処理の水準から考える。

具体的には、情報を受け止めるとき、それを感覚的、物理的に分析、処理する浅い処理と、抽象的、意味的に分析、処理する深い処理とがある。例えば、前者は漢字を記憶する際に、漢字の形や音韻に注目し、繰り返し読んで記憶するようなやり方であり、後者は漢字の意味を考えたり、自分の経験と関係づけて記憶するようなやり方である。この処理の水準は、学習スタイルのひとつとして扱われ、学習との関係は、次のように示されている。

浅い学習スタイルの生徒は、学習方略として主として記憶方略を用い、文字通りの逐語的な学習様式を好む。記憶指向の学習方法に大きな関心を示す。学習結果は多くは低次のレベルの知識である。

中位の深さの学習スタイルの生徒は、学習を自分の経験に関係づけ、新しい学習材料を自分の言葉とイメージに変換し、以前の知識に関係づけて学習する。理解指向の学習方法に関心を示し、また記憶指向の学習方法にも一定の価値を認める。学習結果は知識の理解と応用である。

深い学習スタイルの生徒は、学習方略として概念で考え説明する。記憶では意味を手掛かりにし、学習では概念の発展と改善を目指し、概念を比較、対照し、それらを階層と理論の構成のため体制化することに重点を置く。理解指向の学習方法を用いる。学習結果は高次のレベルの分析、統合(創造)、評価を生じる。

教材の作成や活用においても、生徒の処理の深さ、スタイルを考え、浅い処理から深い処理へと改善するように配慮することが必要である。

〜図書教材新報vol.62(平成22年6月発行)巻頭言より〜