vol.63

図書教材とデジタル教材
日本図書教材協会副会長
川野辺 敏

情報機器が学校教育の主役になろうとしている? 携帯・パソコン、最近では「iPad」といった機器はたしかに日常生活を豊かにし、学習・研究面でも「脇役」「手段」として、学習や研究に役に立つことに異論はない。しかし、それを「主役」に格上げするような話になると黙ってはいられない。

『コンクリートから子どもたちへ』という鈴木寛文部科学副大臣と寺脇研氏の図書を手にすると、「教育力の底上げということでいうと、教科書や教材のデジタル化ということがある」「日本の教科書は薄いといわれるが、デジタル化すればいくらでも増やせ、しかもレベルによって必要な部分を自由に使えるようになります。また、動画や大量のワークシートも入れられるし、ドリルも入れられるし、教員が自由に編集できるので、子ども一人ひとりに必要な部分を提供することも出来ます」という鈴木氏の発言が気になる。教科書や教材を小型パソコンや電子端末におさめ、授業を展開するといった考え方である。文科省の情報通信技術(ICT)導入会議では既に検討を開始しており、会議の骨子案によれば「ICTの使用は学校教育の責務であり」、パソコンや端末を児童・生徒全員に配布して授業を行うことを前提にしているというのである。(「読売新聞」7月8日)

学校教育は教師を主役とし、「教師と児童・生徒との相互関係」の中で、営まれるものであるが、極論すれば、将来、教師は脇役で「端末」を主役とし「子どもと端末との相互関係」で学ぶということになりかねない。こんな乱暴な話はほって置けばよいというのが教育関係者の大方の声であろうが、長い伝統の下に積み重ねてきた「図書教材」のあり方に影響することは避けられまい。「図書教材協会」の名称を含め、従来の事業の再検討が必要だろう。

〜図書教材新報vol.63(平成22年8月発行)巻頭言より〜