vol.67
- 学年に相応しい扱いを
- 社団法人日本図書教材協会理事
- 東京学芸大学名誉教授
- 杉山 吉茂
平成10年の学習指導要領の改訂では「ゆとり教育」のため時間数が減らされたが、今回の改訂で算数・数学の時間数はほぼ昔と同じようになったことは慶ばしい。元に戻るとは言っても、教員の構成が大きく変わって若くなったので、内容が多くなったことにとまどいを感ずる人も多いようである。それだけに、教科書や図書教材が果たす役割は大きいと考えられるが、それについて気をつけてほしいことがある。
系統性が強い教科である算数・数学では、学年に割当られた内容の増減は、学年の移行を伴う。前の改訂では対応学年が後ろに移ったが、今回は前に移るものがある。前の改訂のとき、学年が移ったにもかかわらず、学習の展開が変わらないことが見られた。たとえば、中学校の3年にあった円周角の定理は2年に移されたのであるが、2年に移されても以前の3年と同じ展開をしていた教科書、教材があった。円周角の定理は、以前は円の性質として円の単元の中にあったものであるが、それが2年に移されたのは、証明のよさを理解させることを目的とし、二等辺三角形の単元に位置づけられたものである。内容は同じであっても、目的が違えば、扱いも変えるべきはずなのに変えられなかった。円周角の定理は、今度は円の性質として円の単元に位置づけられるから、昔と同じ扱いにしてよいことになる。
学年が変われば扱いは変えるべきである。扱う時間も変わってよい。後ろに移されれば、精神的に成熟し生活経験も多いから早く理解できるので時間数を少なくしてもよいこともあろう。同じ学年で学習する内容も変わるので、それらの内容との関連で学習する目的も変わることが考えられる。もちろん、そのまま移せばよいものがあることはいうまでもない。
いろいろな事情で慌ただしく、すぐ対応できないかもしれないが、少しずつでも検討し、うまく落ちつかせてほしいものである。
〜図書教材新報vol.67(平成22年11月発行)巻頭言より〜