vol.69

教材の骨格と脱皮
日本図書教材協会副会長
川野辺 敏

「脱皮しないヘビは破滅する。ただ、骨格(芯)は変えてはいけない」といったニーチェの言葉があり、人生の教訓にしていると書いている人がいたが(「読売新聞」12月12日朝刊)、教育も同じだなと妙に納得したのである。

諸外国の教育を眺めていると、これまで中等教育改革に焦点が当てられてきた観があるが、ここ数年、教育の初期段階の重要性、いわば「教育の骨格」の部分に着目し、改めて政策課題にしているようである。アメリカでは、「落ちこぼれを作らないための初等中等教育法」(2002年)を設け、義務教育段階の教育の改善に努力してきたが、最近ではヘッドスタート(就学前早期教育計画)の充実や「0〜5歳児対象の早期プログラム」の開発などに力を注いでいる。また、イギリスでは改めて「初等教育課程検討報告書」(2009年4月)を公表し、初等教育の目標・構造などの骨格を確かなものにする作業を進めており、フランスでも一般児童の学習時間を減らしてまで、「遅進児」の学力改善(週2時間を充てる)を進め、初等教育全体の学力向上を図ろうとしている。

このように子どもの発達初期の骨格・土台の重要性を再確認しながら、「脱皮」を図る姿勢、つまり、教育改革を矢継ぎ早に進める傾向が見られるが、急ぎすぎは危険である。韓国は「脱皮」の盛んな国であり、各種の改革を進めてきたが、2007年公示の「教育課程」の導入間もない2009年に再び「改定教育課程」を提示し、「創造的な体験活動」の導入や小学校での英語の時間の一層の充実を求めている。現場は混乱するのではと気になる。教材に関していえば、これまで蓄積した基本的教材(骨格)を大切にしつつ、デジタル教材等の導入には、「慎重に脱皮する」ということであろうか。

〜図書教材新報vol.69(平成23年1月発行)巻頭言より〜