vol.70
- Beyond Textbooks
- 財団法人図書教材研究センター副理事長
- 上越教育大学名誉教授
- 新井 郁男
経済協力開発機構(OECD)の内部機関である教育研究革新センター(CERI、セリ)から2009年にBeyond Textbooks(「教科書を超えて」)と題する報告書が出されている。これは北欧諸国(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)における教材デジタル化の促進要因と阻害要因の両方についての調査報告書である。
わが国では、教科書のデジタル化が政策課題となっており、文部科学省、財団法人教科書研究センター、民間の団体などで調査や論議が始まっているが、こうした動きは世界の多くの国において、時代の流れとなっている。右の報告書や、筆者自身が教科書研究センターで昨年7月に発足させた「教科書・教材のデジタル化に関する調査研究」の委員長として行っている内外の学校の視察などに照らしてみると、相当慎重に、多くの観点から調査・検討することが必要のように思われる。わが国の流れはむしろ遅れているともいえるが、早く追いつかなくてはと考えるのではなく、先行する国々や学校の実践から、プラスの面だけでなく、さまざまな課題を学ぶという姿勢が重要であろう。
セリの報告書は、多くの事例調査に基づいて、トップダウン的に開発を行って、学校に導入しようとするのではなく、これまで学校に導入されてきたさまざまな情報機器がどのように使われているか、また、逆に、使われていないかといった実態を踏まえ、学校・教師が実際に授業等において活用しているものを土台にして開発し導入を図っていくことが重要であると指摘している。
わが国でも、経済政策ではなく教育政策として慎重に検討が進められることを期待する。
〜図書教材新報vol.70(平成23年2月発行)巻頭言より〜