vol.72

ネットカンニングに思う
社団法人日本図書教材協会理事
東京学芸大学名誉教授
杉山 吉茂

ネットカンニングが見つかった。これについてはいろいろ議論が行なわれているが、一方で、便利な世の中になったものだとも思う。私もネットで調べることはある。「ネットカンニング」についても、ネットで検索すれば、いろいろな情報を知ることができる

こうしてネットで調べることができる時代になったら、教育のあり方、学校で教える内容について再検討する必要があるのではないかと以前から思っていた。たとえば、教える内容は今より少なくしてもよいのではないか。コンピュータで処理できることは、コンピュータに任せることにしたらどうか、など。でも、入学試験のような問題まで解いてくれるとは思わなかった。ヤフーの知恵袋に質問すると、いろいろな問題に答えてくれるという。結婚式のアイディアなどを聞く人もいるという。

しかし、ある調査で「ネットで調べられることは、覚えておかなくてよい」と回答した子どもが、調査対象の子どもの三分の一もいるということを知って考えさせられた。検索すれば分かるのだから、覚えなくてもいいというのも一理だが、まったく覚えておかなくてもいいというわけもなく、どうしても覚えておかなければならないこともあるはずである。

それよりも、質問すればすむから、考えることも勉強することもいらなくなると思う子どもが出てくるとしたら怖い。ネットに質問すれば、答えてはくれるであろうが、その答が正しいとはかぎらない。それを鵜呑みにして行動するようなことがあっては身の破滅にもつながる。なにより、考える習慣を失った人間が育つことが怖い。

得られた情報が正しいものかどうかを判断するに足る基礎となる知識をもち、自ら考え、正しい判断をする力をもつことが、これまで以上に大切となる。このことを子どもたちに理解してもらえるような教育のあり方を考え、実行するように心がけねばなるまい。

〜図書教材新報vol.72(平成23年4月発行)巻頭言より〜