vol.73

子どもたちの笑顔が戻ってきた
社団法人日本図書教材協会会長/dd>
菱村 幸彦

今回の東日本大震災ほど自然の猛威を思い知らされたものはない。巨大な津波が田畑を呑み込み、家々を破壊し、自動車を押し流していく衝撃的な映像が映し出されるテレビを前にして、息をのみ、言葉を失った。

この震災により学校が受けた被害も過去に例を見ない規模になっている。文部科学省の調査によると、震災で命を失った児童生徒は、四月末現在で五二九人、行方不明は一九六人に及んでいる。未来を担う子どもたちの尊い命が無残に奪われたことは、痛恨の極みである。

人的被害のみならず、学校の物的被害も大きかった。校舎や体育館や校庭等が損壊した小・中・高校は五千校に及ぶ。そのうち、建替えや大規模復旧を要する学校は一九四校で、何らかの復旧工事を要する学校は四千校を超えている。

さらに、地震と津波に原発事故も加わって、いまだに十万人を超える人々が避難所で不自由な生活を強いられている。避難所で暮らす児童生徒は教科書も教材も学用品も失った。

文部科学省は、学校の復旧工事をはじめ、学用品の給付や奨学金の貸与などの就学支援のため、第一次補正予算で三千億円余を計上した。政府はさらに第二次補正予算を組む予定という。及ばずながら、私どもの協会加盟社も、災害で教材を失った児童生徒に対する図書教材等の提供について支援を行う活動に取り組んでいる。

これほどの大災害にもかかわらず、被災地のほとんどすべての学校が四月中旬までに授業を再開した。文字どおり、未曽有の大惨事の中で、授業の再開がこんなにも迅速に行われたことは、特筆していい。日本国民の教育にかける熱い思いと、それを受け止める日本の教育システムの卓越性を改めて認識した。

被災地の学校に子どもたちの元気な声と明るい笑顔が戻ってきたことは、復旧・復興に向けて力強く歩み出したシンボルといえよう。

〜図書教材新報vol.73(平成23年5月発行)巻頭言より〜