vol.74
- 考える力の育成を考える
- 財団法人図書教材研究センター理事長
- 筑波大学名誉教授
- 辰野 千壽
考える力の育成は、いつの時代にも強調されているが、特に今日の教育では、確かな学力の重視から、自ら考える力、問題を解決する力の育成が強調されている。この「考える」とは、「ものとものとの間に関係をつけること」であり、さらにいえば「新しい関係を作り出すこと」である。したがって、考える力は、知覚や記憶によって頭の中に貯えられている知識をいろいろに関係づけ、新しい関係を作り出す力である。基本型は、概念、判断、推理の作用である。概念作用は、同類のものについて共通部分を取り出し、それを関係づけて概念を作り出す働きであり、判断作用は、二つ以上の概念の間、あるいは概念とその属性との間に関係をつける働きであり、推理作用は、二つ以上の判断の間に関係をつけ、新しい判断を作り出す働きである。さらに問題解決は、問題に含まれているいろいろの条件の間に関係を作り出し、一つの結論を見つけ出す働きである。創造的思考は、まったく新しい関係を作り出す働きである。
このような新しい関係を作り出し、問題を解決する過程を認知心理学では問題の認知、問題の明確化と表現、可能な方略の探求、その方略に基づいた行動、振り返りによる効果の評価に分け、それを効果的に行うために、次のような点について具体的方略をあげている。自己動機づけ、問題の明確化、過去の経験の活性化、系統的な条件整理、資料の収集と活用、慣れた形への置き換え、具体的な形(例えば図)への表現、仮説の立案と検討、集団による思考など。
学校では、このような点に気をつけて指導しているが、考える力や態度を育てるには、さらに家庭でも幼児期から生活の中で考える場面を与えることが必要である。日常生活で何も考えないで生活できるような満ち足りた便利な生活をさせていると、自分の欲求を満たすために考えたり、工夫したりする必要がなくなり、考える習慣や態度は身につかない。
〜図書教材新報vol.74(平成23年6月発行)巻頭言より〜