vol.80
- 新しい教科書と図書教材
- 社団法人日本図書教材協会会長
- 菱村 幸彦
新年度から中学校の新学習指導要領が全面実施となる。新しい教科書は、ゆとり教育で削減された内容が復活したり、基礎・基本の反復学習や習熟に応じた発展学習の教材が盛り込まれたりで、教科によっては3割もページが増えている。
で、こんなに分厚い教科書を限られた時間で、どうやって教えるのか、という懸念の声が出ている。しかし、これは授業で教科書をどう使うかの問題であろう。つまり、教科書を目的的資料として扱うか(教科書を教える)、それとも方法的資料と扱うか(教科書で教える)で答が異なる。
我が国の教育課程は、教科書カリキュラムだといわれることがある。指導計画も授業の展開もすべて教科書どおり、最初のページから最後のページまで隈なく教える――いわば教科書ベッタリのカリキュラムというわけだ。これは「教科書を教える」やり方である。こうした授業では、教科書が分厚くなれば、授業時数が足りなくなるのは必定であろう。
これに対し、「教科書で教える」授業ならば、教科書にとらわれないで、教師の創意工夫によって多様で弾力的な授業を展開できるから、教科書が少々分厚くなっても、格別困らない。
学校教育法は、学校では教科書を「使用しなければならない」と定め、かつ、教科書以外の教材で「有益適切なもの」の使用を認めている(34条)。つまり、教科書法制では、教科書を方法的資料と定めた上で、教師の創意工夫を生かした授業を支援する多様な図書教材等の使用を予定しているわけだ。
我が国の図書教材の豊富さと質の高さは、他国に例を見ない。新学習指導要領の全面実施に当たっては、教科書と多様な図書教材を適切に組み合わせて、一人一人の生徒の実態に即応した、効果的な授業が展開されることを期待したい。
〜図書教材新報vol.80(平成23年12月発行)巻頭言より〜