vol.81
- エビデンスに基づく教育改革
- 社団法人日本図書教材協会顧問
- 筑波大学名誉教授
- 辰野 千壽
近年、アメリカやイギリスでは、エビデンス(証拠)に基づく政策や実践が重視され、我が国でもこの問題に関心がもたれるようになった。この考えは、一九九〇年代に医学の分野で強調された。例えば、新薬の導入に際して、臨床試験の結果、効果があるという証拠が得られたとき、はじめてそれが認められた。その試験では、ランダムに分けた二つのグループの一方に新薬を与え、他方のグループにはそれを与えないで、その治療結果を比較し効果を確かめた。このような厳密なランダム化比較試験で産出された結果がエビデンスとして用いられたのである(国研・国際シンポジウム 平成22年)。この方法は心理学の研究では古くから用いられている
このようにエビデンスを重視する考え方は、その後教育の分野にも波及し、我が国の教育改革でも、すでにこの考え方を取り入れている。例えば、学習指導要領の改訂では、PISAの学力調査や文部科学省の全国学力テストなどの結果が資料として用いられている。
身近なところでも、この考え方は大事である。例えば、今日、電子教材が問題になっているが、単なる理論的主張や教師の経験とか主観的判断ではなく、従来の教材との厳密なランダム化比較試験の結果に基づいて判断するべきである。また、学力向上を目指していろいろの教授法が提唱されているが、やはり確かなエビデンスに基づいて、その長短や限界を見極めることが大事である。
なお、この種の研究では、被験者の人数が一般的結論を出すのに十分であるか、一般の児童・生徒を代表しているか、実験条件がよく統制されているか、結果は正確に量的形式で示されているか、などに注意することが必要である。
さらに、教育問題について解決を求めて文献を読む場合にも、その主張が確かなエビデンスに裏づけられているかを見極めて活用することが大事である。
〜図書教材新報vol.81(平成24年1月発行)巻頭言より〜