vol.84

教科書のデジタル化―求められる実証的研究
社団法人日本図書教材協会理事
上越教育大学名誉教授
新井 郁男

教科書のデジタル化が政策課題として浮上しているが、学校に広く定着させるには、単なる意見や立場からの論議ではなく、多角的な実証研究を行い、その結果に照らした提言などが求められる。

教科書研究センターのプロジェクトとして平成22年7月から1年数か月にわたって教科書・教材のデジタル化に関する調査研究が行われ、その全体報告書が去る2月に刊行された。調査研究は国語、社会、算数・数学、理科、英語の5教科を中心として、国内外の初等中等学校における先進的な取り組みの視察や関連機関での聞き取りという形で行われた。限られた期間における限られた学校での視察が中心であるが、多くの可能性と同時に、多くの課題も浮き彫りになった。

筆者は全体のまとめ役を務めさせてもらったのであるが、可能な限り視察などに参加し、また他のプロジェクトメンバーの報告を読んだ上での若干の所見を述べるならば、教科書のデジタル化は、協働的な学習を推進したり、教科書の部分を電子黒板に提示することによって、学習箇所を明確にしたり、児童・生徒が書いた意見・感想などを電子黒板に提示することによって、それについてディスカッションを行うことができるなど、従来の紙媒体の教科書だけではできないことが可能になるなど、さまざまなメリットはあるが、デジタル化の基本的目的(哲学)は何かということが明確ではないということである。

国内の学校で見た実践はほとんど一斉授業であったが、デジタル教材の受け止め方や影響の仕方は子どもによって同じではないようであった。

子どもの学習スタイルなどに応じた授業の個別化の観点に立った教材開発が望まれる。

〜図書教材新報vol.84(平成24年4月発行)巻頭言より〜