vol.86

挿絵の方略を考える
一般社団法人 全国図書教材協議会会長
辰野 千壽

教材の作製や使用では、子どもが文章の内容を理解するのを助けるためによく挿絵(写真を含む)を用いる。ここでは、挿絵が学習に及ぼす影響について、次の二つの点から学習心理学の研究の要点を纏めてみる。

第一は、単語の学習と絵の方略の関係である。 単語の読み(発音)の学習では、絵がその学習を助けるかについては、研究の結果は必ずしも一致していない。ただ、象形文字のように、文字の視覚的特質と音声的特質の間の関係が類似している場合には、絵はその学習を助ける。

単語の意味の学習では、絵は単語の定義を具体化する表現的機能、単語をその定義で統合する体制化機能、より有意義な形に変える変換機能により、単語の意味の学習を助ける。絵の効果は、この三つの機能の順序で期待されている。

第二は、文章の学習と絵の方略の関係である。 文章の中の絵が、その文章の学習に及ぼす影響は、物語文と説明文に分けて考えられている。

物語文の学習では、文章の内容を描いている絵は、表現の具体性を高めるので、内容の理解と再生を助ける。また、絵は文章に含まれている情報を越えて、子どもが推論できるようにする効果がある。もちろん、本文と関係のない絵は効果が無いか、むしろ妨げになる。

説明文の学習では、手続きを説明する文章の場合には、手続きを表す絵を加えた方が有利である。さらに複雑な概念の説明のような抽象的な文章の場合にも、絵の説明を加えた方がよりよい学習とより積極的な態度を引き起こす効果があることが示されている。

このように、絵は子どもの学習に影響するが、促進効果は学習課題と絵の種類との関係、課題の内容、子どもの特徴などにより変化する。指導では、文章の内容を有意味な形に変える変換機能を生かすことが大事である。

挿絵の方略を実際に活用するためには、さらにきめ細かい実践的研究が必要である。

〜図書教材新報vol.86(平成24年6月発行)巻頭言より〜